「10代から進む新世界」イベントレポート

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2023年3月8日、村半にて神田沙織さんと開催した「10代から進む新世界〜多様な進学・就職・生き方トークイベント」。

参加されたライターの新藤真由香さんが、当日のイベントレポートをご寄稿くださいました。

雪が溶け希望に満ちた春を迎える3月8日夜、高山の町を沸かせるイベントがありました。

「10代から進む新世界〜多様な進学・就職・生き方トークイベントin高山市」今回のメインテーマは「飛騨の10代の選択肢」について。

飛騨地域では、都市部に比べると進学や就職など将来の選択肢が狭くなりがちですが、若者達の将来はもっと自由で広い多様な選択肢があってもいいはずです。

高山出身でも、いろんな生き方をしている大人たちとリアルに触れ合ってもらうことで、子どもたちの将来の可能性を広げる選択を応援できればとイベントが企画されました。

世間の常識だけに捉われない自由で多様な社会生活を経験したお二人にご登壇いただき、今まで語られなかった赤裸々な話が繰り広げられ、9名の参加者とのフリートークでは30分延長をするほどの盛り上がりでした。

参加者は、現役高校生、子育て中のパパママ、小学校の先生、地元企業の社長、カフェ経営、起業家、個人事業主、デザイナー、建築家、ホテルマン等、多種多様な属性や年齢の市民の皆様と、高山の子どもたちや地域の未来について語り合う貴重な時間となりました。

参加者同士での繋がるきっかけにもなり、「先生お久しぶりです」とお子様の担任の先生と久々の再会をされる一幕もありました。そんな再会があるのもこの飛騨地域の魅力の一つで、日本一広い市でも人と人の距離は近くて温かい町です。

登壇者の紹介

〈中村 匠郎〉なかむら たくろう

1984年生まれ、岐阜県高山市出身・在住。

高山の観光名所・陣屋近く「銭湯ゆうとぴあ」の末っ子長男として誕生、地域の人に愛されながら育つ。

岐阜県立斐太高校を中退後、父の勧めで夏休み前にニュージーランドの高校へ入学、アメリカの大学へ進学後10年近くを海外で過ごす。

日本へ帰国後、東京の有名企業での多忙すぎる生活に疑問を抱き、将来の人生を見つめ直すため地元高山へ戻る決断に至る。

2017年高山へUターン後、ゲストハウス「cup of tea」を創業し、家業の銭湯を継承。

2号店「cup of tea : ensemble」をオープン。地域資源を活かし「飛騨高山を木の町にしたい」と地元の木工会社「飛騨産業」とコラボしデザイン賞なども受賞。

地域が幸せになるための「循環」をポリシーとし、観光・木・情報を軸としたまちづくりでさらに豊かな高山を目指し、地元の人を巻き込みながら盛り上げている。

〈神田 沙織〉かんだ さおり

1984年生まれ、大分県佐伯市出身・高山市在住。

日本女子大学卒業後、最先端の3Dプリンタの会社へ就職。転職後も3D業界で経歴を重ね「ものづくり系女子」としてメディアで発信し注目を集めた。

2015年総務省「異能vation」プロジェクトに抜擢され、独創的なICT(情報通信分野)への挑戦者を応援する研究に取り組む。
2017年シェアハウス「Cift」の立ち上げに携わり、協同組合として共に働きながら共に暮らす「拡張家族」としてコミュニティ子育てを実践し、「子連れ100人ヒロバ」実行委員長を務める。

2000年に高山へ移住し、子育てをしながら東京との二拠点生活を送る。

現在は株式会社wip取締役、ソーシャルアクティビスト(社会活動家)として活躍中。

お二人の自己紹介をお願いします

神田:私の就職の動機は、大きな夢や志もなくて特に誇れるようなものではないんです。就職先も「新しいビルがいい!」と「新丸ビル」で検索して「3Dプリンタの会社」に入社しましたがリーマンショックの煽りを受け、たった1年で倒産してしまい「逆境で何ができるか」を必死で模索しました。

その後の転職先では「ものづくり系女子」をメディアで発進すると注目を浴びたり、ファッション×テクノロジーを掛け合わせた仕事が注目され、国が認めた変な人企画の第二期生としても活動しました。

私の人生は「行き当たりばったり」で流れに身を任せているので、その時にならないと何が起こるかかからないです。

その後渋谷コミュニティビルに入る新事業「Cift」のシェアハウス立ち上げに携わり「拡張家族」という生き方に出逢いました。様々な業種・年齢・個性が集まり家族のように暮らして、それぞれが出来る役割を楽しみながら発揮して、助け合える習慣が自然にできていく環境です。

例えば、入居者で「25歳独身・彼女なし・子供3人まで過ごせるという特殊能力がある鍼灸師の男性」は、子育ての経験は全くないのに子どもの面倒を見たり遊ぶのが本当に上手で。入居者の子どもたちの子育てをしてくれたり、預かってくれたり、疲れたママには鍼も打ってくれたりして。

核家族化が進む中で、家族以外に子育てしてくれる環境があるのはシェアハウスの良いところで「拡張家族」はこれからの時代の生き方になると思いました。

この町に移住して日々思うのは「私はこの地域でどんなことができるか」「子どもたちはこの環境でどんなことを選んでいくか」ということです。

中村:第一部で、現役高校生との対話をした時に、高校卒業後の進路について「何が得意で何がやりたいか考えても具体的に思い浮かばない」という話が出ました。

僕も元々そういうものはなかったし、ニュージーランドの学校に行ったのも、親からこれからは海外!と言われたから留学しただけですし、IT系に進んだけど数学が好きなわけでもなかったんです。新卒の動機は「東京の青山で働いてみたい」というだけでした(笑)

僕の人生は「目の前に現れる何かを掴んできただけ」で常に転々としていて、どこかふわふわとした人生で東京にも息苦しさを感じていました。でもそのお陰で、常に自分を俯瞰して見ることに繋がり「俯瞰力」が自然と身についていました。「コンプレックスと強みは表裏一体」だと今だから分かることがあります。

参加した理由は?

参加した理由も人それぞれ。

現役斐太高生は「将来についても明確に何がしたいかわからなくて悩んでいるときに父に誘われたから」

親御さんは「今日のイベントを新聞で知り起業された人の話を聞くことがないので楽しみで娘を誘ってきました。進路選択や今後の生き方を見つけるきっかけになれば嬉しい。」と何か期待を持って参加してくださる方が多かったです。

フリートーク〈教育、子育て、仕事〉なんでも話そう!

Q.お二人の人生を聞いて「なんとかなるさ」を感じましたが、自己肯定感が高いからですか?

中村:自己肯定感は持つべくして持てたわけではないです。ニュージーランドでの高校3年間は全く英語ができなくて差別も受けましたし、アメリカの大学ではようやく覚えた英語も地域によって違うことを知りました。

誰も友達ができなかったので、自問自答の日々が続き「自分は何者なのか」問い続けたことで、自分が何者なのか少しずつわかってきました。

今言えることは「僕はすべて直観で選んできた」ということです。

東京が合わないと思っていた時「海外で働きませんか?」との1通のメールが来て直観で決めました。その時も自問自答をすると「僕は大きな組織で働くのが合わない。同じところに居続けるのが難しい」とわかりました。次第に「自分の強みと弱み」がわかってきて、自己肯定感を上げてきました。

神田:高校で留学した時に、留学生は自分の意思を尊重されていました。日本に帰ると自分の意思を聞かれることはなく、子供はこうだとか全て他人に決められているのが不思議でした。「なぜ毎日同じ場所に行かないといけないの?」「なぜ好きな服じゃなくて決められた制服を着ないといけないの?」と違和感が高まり、私は留学から帰ってきて高校に行かなくなってしまいました。

そんな私を親は理解してくれて、学校に行かない私に「どうしたい?」と気長に聞いてくれる内に「大学には行きたい」とようやく答えが出ました。私の意思を尊重してくれ事が本当に有り難くて今でも感謝しています。でも周りからは理解されなくて、親も私も変わり者と言われていました。

私も、自分の子どもに「どうしたい?」と聞くようにしています。

Q.高山に戻ろうと思ったきっかけは?
中村:子どもたちもグローバルに育てたいと思っていたので、地元で銭湯を継ぐ予定は全くなかったんです。結婚して東京のサラリーマン時代、週5日は名古屋出張で週末だけ東京に帰る生活で体はボロボロ、エクセルの奴隷でした(笑)そんな生活が続く内に「何かおかしい…」と思い僕は逃げました。

「何が幸せか?」と問いかけ浮かんできたのは「高山に帰る」で、突然「高山でゲストハウスをする」と言い、妻に事後報告をして高山に戻ってきました。ついて来てくれた妻に感謝しています。

参加者:「逃げる」も大切。僕も以前働いていたけど嫌だと逃げたんです。でも今逃げた先に高山にいてお店を開き結婚もしました。人生何があるか分からないです。

Q.シェアハウス「拡張家族」について

神田:40人もいれば食べ物で争いも起こります(笑)いろんな人がいるので、一人ひとり自分が出来ることを提供して、子育てもシェアできるので自分で全部やらなきゃというのがなく、困った時は誰かに助けてと言える環境やその場で相談できるのは本当に良かったです。

中村:毎日、5歳と1歳の娘二人を銭湯へ連れていくのですが、地元の銭湯って大体毎日同じ時間に同じメンバーがいるんですよね(笑)いつの間にか顔馴染みになって、娘の誕生日を祝ってくれたり、こっそり飴ちゃん忍ばせてくれたりして自分の子どものように可愛がってくれます。

ゲストハウスに海外のお客様が来ると、子ども達は最初の頃は恥ずかしがるけど、すぐに慣れて今では普通に「Hello」とか言うんですよ。自然に、いろんな人に触れ合える機会になっているのはいい環境だと思います。

Q.子育てについて

参加者:子ども扱いせずに子ども自身の意思で決めてもらうことや、大人は完璧と思わせないことが大事。大人も間違えることがあるから自分の頭で考える癖をつけてもらいたいです。

Q.地域社会について

神田:大きな話題ではなくても、誰かの悩みや気になっている事を話し合える場所があるといいですね。「この場所を良くするために一緒に考えよう」それだけでいいですし、多数決ではない決め方、49人賛成でもたった1人の反対意見も尊重できる民主主義も大切ではないでしょうか。

参加者の感想(高山市内の高校に在籍中の学生)

参加して良かったです。「拡張家族」という言葉を初めて知りました。転職して起業するという生き方があることに衝撃を受けました。

匠郎さんの「直観でその時にやりたい事を決めて、後から振り返ればいい」という言葉が1番心に響きました。

参加する前は漠然とした将来への不安がありましたが、お話を聞いて今から将来のことを焦って決めなくても、その時にやりたいことをしながら考えていけばいいと知り、とても気が楽になりました。私も自分自身が「どんな人間か」考えてみたいと思いました。

他にも、大人たちからは、社会人がもっと学校に関わってほしい!ぜひ中村さんに学校に来ていただき今日のようなお話をしてほしい!とご意見をいただきました。

主催者の感想(中村匠郎さん)

開催して良かったです。

最初は人が来てくれるのかが心配で、基本的にネガティブな自分の話を赤裸々に語るだけで誰かのお役に立てるのだろうかと不安もありました。考えても分からないので、まずはやってみて何か持ち帰ってもらえたらラッキーだと結果はお任せしました。

自分が誰かのお役に立てたのかは分かりませんが、高山の中でもこれだけキャリア豊かな人がいる、今まで意見交換する場所がどれだけなかったということに気づけました。こういう日常の視点を話し合える場所が高山には必要で、地域の活性化に良いきっかけになると新たな発見がありました。

最初は中高生の為にと始めましたが、大人も学生も子どもたちも巻き込んでもっと定期的に開いていきたいです。ぜひ来てほしい!こんな内容で話し合いたい!などご希望があればぜひご連絡いただけると嬉しいです。

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