飛騨高山の観光産業の問題点 と その打ち手

まちづくり

先の投稿に対して、こんなコメントを頂いた。
(公開したので名乗ってください!と言ってみたいけど、実名投稿ってハードル高いですね・・)

思いつきの文章。地域経済のことをちゃんとデータに基づいて考えていないですよね。高山市が出している地域経済構造分析ぐらい読んでおけば?  高山市は地方では珍しい、外貨を稼ぐ産業が沢山有るんだよ。化学製品を筆頭に、宿泊業、運輸・郵便、飲食サービス、家具・装備品、卸売業、畜産食料品、小売業が地域経済に貢献している。観光観光って自分がゲストハウスをやっているから我田引水だろ。バケツの穴? 高山市の域内外の収支は毎年100億円の赤字だ。ほとんど通信業の域外移出の額と同じだ。たのむから地域経済構造分析を読んでくれよ。

そもそも、宿泊業は働き手がいない問題をどうするんだ? 有効求人倍率から見たら人はいるのに働かない。なぜか? 賃金が安いからだよ。市内で働き手が見付からないし、毎日越境して働きに来る人も有り得ない。賃金が安ければ地域外から働き手を呼べるはずもない。詰んでる。稼げないから人が金を出して人を雇えない、人が雇えないから部屋を稼働させられないから稼げないの循環じゃないか。安い宿ばかり作って宿泊業の奴ら、みんなバカだろ?

どうせ非公開だろ? 名乗らないよ さんからのコメント

この方からコメントを寄せて頂いたのは3年ぶりで、久しぶりにパンチあるものを頂いたものの、よく読むと今の観光産業が抱える問題点が炙り出されているし、頂いたコメントに返信することで、前回の投稿で説明が不足してた部分を補足できる。そして何故僕が「木のまちづくり」がこれからの飛騨高山にとって必要なのかに繋げられそうなので、ちょっと予定を変更してコメントに対する僕の考えを補足してみたいと思います。

構成としては前編で頂いたコメントが指摘している観光産業の課題について。中編では数ある”外貨を稼げる産業”の中でなぜ「木」の産業なのか。後編では「木」を中心に据えた産業振興について考えをまとめてみます。

観光の問題点 – 低賃金から始まる悪循環

そもそも、宿泊業は働き手がいない問題をどうするんだ? 有効求人倍率から見たら人はいるのに働かない。なぜか? 賃金が安いからだよ。市内で働き手が見付からないし、毎日越境して働きに来る人も有り得ない。賃金が安ければ地域外から働き手を呼べるはずもない。詰んでる。稼げないから人が金を出して人を雇えない、人が雇えないから部屋を稼働させられないから稼げないの循環じゃないか。安い宿ばかり作って宿泊業の奴ら、みんなバカだろ?

どうせ非公開だろ? 名乗らないよ さんからのコメント

まさにご指摘の通り、飛騨地域の宿(というか日本全国の宿事業者、だけでなく、日本全国の労働集約型産業事業者)にとっての悩みは人手不足です。

噂によると、2022-2023年の年末年始、一年の中でも単価が上げやすいこの時期も、市内では清掃員の方を確保できなかったがために本来の60%くらいしか稼働させられなかった事業者さんがいたとか。。

人手不足だもん、仕方ないじゃんと片付けるのは簡単ですが、原因の一端は経営側・業態の性質にある。少しこの問題を深掘りしてみます。

低賃金 ⇆ 人手不足問題の深掘

安宿だから人を雇えないの?

安宿でも稼働率を高く保つことができれば人を雇うことができます。そして、それ相応の給料を支払うこともできると思っています(当然か・・)。

安宿 → 低賃金 → 人手不足って分かりやすいですが、色々と議論が抜け落ちてしまいがちなので整理が必要かと。

例えばその宿にとって「適正な」サービスを適正な価格で提供しているか、というのは1つの質問。

日本のサービス業でよく言われる”過剰サービス”が起きている時に、それが「必要であるならば」その分は適正価格として乗っけるべきだし、不要(顧客目線で問うてみるだけでもかなり違うはず)ならば、削減すべきと考えています。と、綺麗事を言ってみます。

要は”安宿”であることが悪いのではなく、人手不足・低賃金の問題に対して、原因の解像度を上げる必要性(誰が、どれくらい、何故足りてないか、何故低い賃金しか払えないのか)と、その質問をもう一度顧客目線で問い直すのと、原因に対してしっかりと打ち手を考え、対処することが求められるのではないかなと。

現場の宿スタッフって高給取りになれるの?

って言っときながら、宿の従業員が高給取りになるのって難しいんです・・。

なぜかというと労働集約的な仕事が多いから。

ある程度の規模の宿を運営している場合、100万円プレイヤーが一人いるよりも10万円で10人を雇用できた方がありがたい、というのが経営側の本音ではないでしょうか(推測)。もちろんその10人の給料をいかに上げていくか、は経営者の責任が多分にありますが、労働集約的な仕事が多い宿業ではまずは頭数が求められる現実はあります。

一般的に現場担当スタッフのキャリアを考えると、現場の対応からマネージャ、そして店長・支配人へ立場を上げることで給料は上っていくんだと思うのですが、現場の方以外ってどうなんだろう?

例えば企画。例えばマーケ。例えば財務、etc.。
これらのポジションを必要としている宿って多いんだろうか、市内で。

これら”本社機能”のポジションは基本的に地域外に存在します(推測)。
そして、この本社機能の方が給与水準は高いし、給与も上がりやすいものと思われます(推測)。

だとしたら、地域外資本のホテルが多く参入し続ける飛騨高山では、どんどんホテルが出来てて活況な割には、そこで働くスタッフ(労働集約型がメイン)の給与が上がりにくいって事態に陥ります。

10万円が11万円、12万円にはなるでしょう。が、15万円、20万円にするためには働く時間を増やさなければいけません。

10万円が30万円、50万円になるでしょうか。
本社機能がない中では、難しい、というのが現実ではないでしょうか?

高級宿は地元資本だけで作れるか?

既存の施設単価を2万円→3万円、3万円→5万円に上げることはできるでしょう。

でも、一気に10万円はたまたそれ以上ってなると、地域資本の既存施設単体の努力では正直難しいと思います。。

泊まったことないから知らんけど、一泊10万円以上の宿って、箱からサービスから既存のもの+αで構築されるんじゃなくて、1からそれ前提で作られてるはず。ハコだけでなく、サービス面でも1から設計されているんだろうと考えると、簡単にこのマーケットへ進出しましょう!とは経営者として決めるのはなかなかに難しい・・。

高山には2023年以降、リゾートトラストが開発する会員制ホテル(新築)、森トラストが保有する土地にラグジュアリーホテル(新築)、元観光ホテルがあった土地もNTT都市開○が高級ホテル(新築)を建てる噂が立つなど、高級セグメントに対して資金も経験も豊富な域外資本の進出計画が目白押しです。

これらの黒船らぐじゅありーに地域はどう対応したら良いのでしょう。

当社初、ホテルと美術館が融合 完全会員制リゾートホテル「サンクチュアリコート高山 アートギャラリーリゾート」6 月21 日(月)より会員権販売開始
リゾートトラスト株式会社のプレスリリース(2021年6月21日 10時10分)当社初、ホテルと美術館が融合 完全会員制リゾートホテル「サンクチュアリコート高山 アートギャラリーリゾート」6 月21 日(月)より会員権販売開始
森トラスト、高山市の重要伝統的建造物群保存地区近くに外資系ホテル誘致 | 日本最大級のホテル旅館情報サイト HOTELIER | ホテル旅館サービス・商品比較
森トラスト(本社:東京都港区、社長:伊達 美和子氏)は岐阜県高山市中心部にある重要伝統的建造物群保存地区「古い町並」の近く(同市上一之町)にホテル開発用地を取得し、外資系高級ホテルを誘致し2020年をめどに開業することを明らかにした。 全国でホテルやリゾート施設21施設を展開する同社グループだが、岐阜県内でのホテル開業...

低賃金 ⇆ 人手不足問題から抜け出すための打ち手とは?

この低賃金課題に対して地元資本の事業者は何ができるか。過去に何度か書いていて、今見返してもまだまだ有効な手立てが多いと思いますが、加えていくつか思いついたアイデアを。

この投稿の中だと特に実現したいのは①宿泊税を使っての地域事業者を優遇する仕組、②現場オペレーションの合理化 & 担当者の複業支援、③若い世代への事業承継でしょうか。

事業承継に関しては面白いサイトがありました。インバウンドが戻りつつある今、高山でビジネスを立ち上げたいという若い方は多いはず。そこの敷居をどれだけ下げて、どれだけバックアップ体制を整えるか、と言うのは、人手不足・事業承継問題だけでなく、宿泊特化型ホテルが増える今後は飲食事業者誘致においても有効になってきます。

自由度の高い店舗を活用できる。創業50年、地域密着の老舗割烹料理店「真山」が後継者を募集! - 事業承継マッチングプラットフォーム relay
全国的にも有名な飛騨牛を始め、鮮度の良い魚料理といったグルメが楽しめる岐阜県・飛騨高山エリア。2016年に新駅舎となったJR高山駅から徒歩圏内に位置し、高山市役所にもほど近い場所に割烹料理「真山(しんざん)」はあります。同店を経営する尾形鉄男さん

発信チャネルとしてこうしたプラットホームに加え、インフルエンサーのtwitter発信ってのも有効かと。ゲストハウス界隈ですと友人の吉岡さんは今や民泊・ゲストハウス開業だったらこの人ってなってて、”飛騨高山で事業承継!”と呟いて頂くことも即効性はありそうです。

他で稼ぐための余白をつくる

地域外資本の宿が増え、賃金上昇が期待できる本社機能の職種が少ない場合、地域としてこの部分の賃上げをしても運営を続けられる事業者をいかに増やすかって点は重要ですが、加えて現場スタッフが職場以外で稼ぐための余白を作るって言う考えをはいかがでしょう。

宿のスタッフはホスピタリティ精神の塊です。観光産業において、このホスピタリティ溢れる人材は宝です。そして、いくらでも彼/彼女が稼ぐポイントは作れると思うのです。一つの宿泊施設で抱えて賃金を上げられないのであれば、外で稼いできてもらったら良い。定型作業の多い宿業はベーシックインカム(固定収入)の提供を、彼/彼女のホスピタリティ+αが活きる領域で変動収入を、と組み合わせると、多少は賃金問題に対しても風穴を開けられるのでは、と。

複業の余白を作るためには宿側としてのオペレーション整備は必須です。顧客単価に合わせたサービスの見直しをした後に、見えない部分は徹底的に合理化。んでもって誰でも回せる標準化って作業は地域事業者が連携して取り組んでいっても良いかもしれません。

既存リソースで、スタッフの稼働が下がってもサービスレベルを維持するためには、かなり大胆にオペレーションを組み替える必要があるのかも?

オール飛騨での富裕層対応

これまた以前の投稿ですが、富裕層向けの宿、富裕層ツーリズムを振興する上でも課題は多いです。

難しいとはいえ、安宿がダメ、高級宿も1地元事業者でやるのが難しい、でもやりたいってなるんだったら、皆でやってはどうでしょう?

富裕層をターゲットにするからには、飛騨に来てから飛騨を去るまでの体験をきめ細かく設計する必要があります。来る黒船ラグジュアリーに対抗するためには、資本力では戦わず、一人で戦わず、皆で、地域一体となって取り組む必要が高いです。

じゃーオールって中には誰が?ってなりますが、もう全員です。「食」の部分だったら、生産者から流通業者、料理をする人から提供者まで。ゲストの一連の体験で何かしら関わる方全員のプロジェクトにしないと本当の富裕層を満足させる商品はできないんだと思います。合意形成がめちゃややこしくなりますが、そこはコミットしてやらねばならぬのです、一体となって。

そこから何を得たいのか? 僕らはどこへ向かいたいのか?

富裕層についての投稿でも書いていますが、「とはいえ」なぜやるの?は問わねばなりません。
大事な視点は観光振興を通して何を得たいのか、僕らはどんな未来を描きたいのか。

「観光」はあらゆる産業へと効果を波及させることができる貴重な外貨獲得産業です。観光に来てくれてる時間を貴重な顧客接点ポイントとして捉え、いかにその後の関係を維持するか。効果を普及させ、拡大させ、継続させられるかは、観光従事者だけでなく、地域として戦略的に動いていくべきです。そうして初めて経済の前輪機能を果たせるのではないでしょうか?

高山には酒、野菜・果物、肉、家具等、外貨獲得の力を持ったアイテムが数多くあります。インバウンド爆発の中でも、とりわけ海外富裕層に対してはこれらの輸出までを見据えた導線設計は必須です。

加えて現状の産業を輸出するだけに留まらない新たな富裕層との付き合い方であるパトロン投資・未来のまちづくりへの投資も意識してみたい。

であるならば、そんな富裕層達に対して、お金を落としてもらえるだけのコンテンツ、プロダクトを僕らは地域として持ち合わせているのでしょうか?未来に投資してもらえるだけのビジョンを描いているんでしょうか?

地域特性を活かした競争にさらされない唯一無二のビジョンと、そこに向かって育成される産業、育まれる文化が未来のブランドになる。

では飛騨だからこそ見据えられるビジョンって??

経済活動を引っ張る「木」はあくまで戦略なので、その上位概念になるものって何だろう??

と言うところで前編終了。中編に続きます。

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銭湯と宿と木でまちづくり(中村匠郎ブログ)

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