コロナによる影響が少しずつ収束し、政府による観光促進事業が各自治体レベルで開始されて、いよいよwith/afterコロナに向けた動きが表に出始めた。来年の桜咲く頃にはインバウンドの受け入れも始まるかなーと希望的観測も込めて予想する。
あわせて近海で停泊していた黒船がこぞって来航するこの先3年間で、地域の観光産業 (今回は宿業を例にとって)を待ち受けるチャレンジについて考えてみた。
再びホテル開業ラッシュへ
BEFOREコロナ期、人口10万人前後の地方都市の中で飛騨高山はインバウンド観光の先頭をひた走り、バブルを謳歌(?)してた。
飛騨高山がここまでインバウンドに成功した要因は①東京と京都の間にあって、②白川郷含めた日本の田舎イメージを③他の地方都市に先立ってインバウンド観光コンテンツとして打ち出したことだと思ってる。
2020年初頭、更に増え続けるインバウンド需要を見越したホテル建設計画によって、JR高山駅周辺のまとまった土地はどんどん更地になり、ここもホテル!、ここもホテル!って状態だったのが、コロナ禍に入り建設計画が中断、暫定的なコインパーキングになってたりした。
最近になって建設工事が再び動き出し、予定では現行の客室数から更に3割増、少なくても4,500室が2025年までに供給されることになるんだとか。
これからより深刻化する人手不足の問題は、一番最初に地域の小さな事業者を襲いかかる
ただでさえ少子高齢化が進む地方都市で、人手不足はほんっと深刻な問題。BEFOREコロナでも問題になってはいたけれど、ここから更に3割のホテル客室数が増えることで何が起こるかなと。
大手資本による人材の引き剥がし・囲い込みによる地域事業者の廃業ラッシュ
多分これ 起こります。
人材の獲得競争は特にホテルの清掃員でより一層加熱する。デジタル化でどんどん効率化できる仕事が多い中、清掃って仕事はどこまでもマニュアルな作業。頑固な汚れを落とす洗剤が開発されても、ベッドにリネンを一発で敷き、シャワー室の水滴を一滴残らず拭いてくれるロボは未だに開発されていない。
どんなに接客が丁寧で素敵な宿泊体験を提供する宿だとしても、掃除が行き届かず清潔感のない宿は間違いなく評価を落とす(身に覚えがあり過ぎる・・)。僕個人の感覚として、宿経営って掃除6、接客・その他4だなって思うくらい重要な仕事は、どんな宿でも必要とする仕事であり、人材の争奪戦が最も激化すると思う。
では 更にホテルの客室数が増えると何が起こるか。
- 清掃員の需要が更に高まる
- 清掃員の求人が更に増え争奪戦が起こる
- 清掃員の給料が高くなる
- 清掃員はより高い給与を支払える事業者へと移る
これまで補助金でなんとか食いつないでいた事業者が、元本据置き期間が終わり返済が滞り廃業するケースに加え、人材の争奪戦によって高騰する人件費を捻出できない/人材が集められない等の理由で運営体制を維持できなくなり廃業する事業者が増えると思う、特に地域の小規模事業者。
小規模事業者さんの中には清掃を委託せず、自社でパートさんを雇用している場合がある。雇用調整助成金があったとしても、コロナを理由にスタッフの一部でも退職していたとしたら、
忙しくなってきたら戻ってきてよ、と言われ、はいそうですか、と戻りたいだろうか?
宿側も稼働が安定しない中で気軽に戻ってきてよと言えるだろうか?
多分そこには長年働いてもらってた中で築かれたロイヤリティ(?)は無くなってしまっていて、働く側は冷静に他の求人と比較するのではないかなと。清掃員の求人を横並び評価された時、評価基準として給料が大きなウェイトを占める、と思われる。んで、他社よりも人件費を捻出する余裕があるのは大手資本(大体は地域外資本)であり、地域の零細事業者は不利になる。
それくらいの人件費を出せないんだったら遅かれ早かれ廃業するでしょ、とか、地域の給料が高くなるんだから、多少の犠牲は仕方ないのでは?って意見は出るとは思う。
ではそう片付けちゃって本当に良いのか考えてみる;
- 争奪戦が起こる人材は主に清掃員等の労働集約型の職種で、スキルアップによる給与の上昇が期待し辛い。一度給料が高いと言って他社(地域外資本の時給が比較的高いところ)に移った後は、同じ仕事をしている限り給料を上げることは難しい。清掃員である限りは給料が安定して上がっていくことはなく、逆に年齢を重ねる度に生産性が下がり給与も下がるリスクが高い。
- 宿泊費は旅行支出の中で一番大きい費目であり、ここを地域資本に落とすのか、地域外資本に落とすのかは、観光産業に頼ってる地域経済においてかなり大きなインパクトになる。
と言うことはですよ、元々地元のお宿で働いていた清掃員が地域外資本の宿へ移った時のインパクトって、ただ人が動くだけに留まらないのでは?と思うのです;
- ホテルが増える。特に地域外資本のホテルが増える
不動産開発により固定資産税は増える。市はハッピー - 人材争奪戦に敗れ、廃業する地域資本の宿が増える
- 争奪戦に勝った地域外資本は問題なく営業が続けられる
- 地域外資本へと流出する宿泊費が増える
- 1-4のサイクルがグルグル回る
- あれ? 何で観光都市目指してんだっけ?
ってなりません?極端??
小さく弱い地域の事業者はそっと静かに店を閉める。
これ、観光客数やホテル客室数等、一般的に見られてる統計指標の限りではあまり大したニュースにはならないと思う。
でも、静かに閉める宿こそが、これまでの飛騨高山を形成する一端を担っていて、観光客が求める”古き良き田舎”らしさに多少なりとも寄与していた存在だったとしたら??
経済的な資本が集まる街にはなれど、その資本はこの地域を経由して、また都市圏へと漏出する。
同時にこれまで積み上げてきた文化的な資本が静かに確実に失われていく。
ではどうするか。清掃員には人情に訴えかけて他より安い給料でも我慢してもらい、”地域のために”働き続けてもらうしないでしょうか?
人手不足の世の中で弱者が生き残る方法
シンガポールで働いていた当時の薄い記憶によると、東南アジア(タイかインドネシアかシンガポール)では、外資がその国で事業を展開するにあたっては、現地の財閥とJVを設立して株も過半は現地の財閥に渡さないといけないってルールがあった、気がする。
雇用においては同一職種の場合、まずは自国民を優先する、みたいなルールがあった、気がする。
こんな感じの自国優先ポリシーを応用できないかなーって思うんです。不動産開発から得られる固定資産税だけで満足するんじゃなくて、地域の経済にとって、中長期的なメリットが出るように少しくらい地元資本有利な仕組みとか、地域が確実に儲かる仕組みを制度として構築しちゃえない?って思うんです。んで、それを乗り越えられる事業者しか参入してこれないくらいの障壁を設けるのってできないものでしょうかね。
自由競争のセオリーには合わないかもだけど、それを良しとして参入ラッシュを招いた結果が、自分たちの地域を舞台に都市の資本を肥えさせるだけでなく、その裏で上がらない時給のもと労働集約的な作業に明け暮れる住民と空洞化されたペラッペラ観光都市ってのが成れの果てって感じになると思うんですー。
こんな状況を打開できるか知らんけど、いくつかできそうなことを考えてみました。
宿泊税(?)
まず思いつくのは宿泊税。地域の宿泊施設を利用する観光客から定額なのか定率なのかを税金として徴収する。
その街に来て地域外資本にだけお金を持ってかれるのはけしからん。ならば税金という形で徴収しよう、と。固定資産税に加え、観光客にも高山市に確実に落ちるお金を負担頂くってのが宿泊税。
これ、注意が必要なのが、徴収した税金を何に使うのかっていうところ。
税金を更なる観光振興に充てる限りは更なる”観光地化”を招き、地域外資本が肥え易い状況を根本的に解決しないばかりか、加速させるリスクもある。
集めた宿泊税が地域に本当にお金が残る仕組みの構築に使われる/地域住民が観光によって支えられてるんだなと実感できる直接的なメリットが出やすい用途にする必要はあると思う。
地元資本の宿に優先的にアサインするルールと事業者間で融通する仕組み
自社で清掃員を抱えてる宿もあるけれど、清掃会社に委託してるってケースも多いと思われる。
清掃会社にしてみれば、大口の顧客(大きなホテル)の方がまとまった売上がたつので小さな宿よりは大きなホテルに営業をかけたいところ。(これ、リネン会社も然り)
その場合、小さいという理由で地元の事業者よりも地域外資本が優先されるだとしたら何か違和感。
大手の方が売上単価(清掃委託費の単価)が高いというのであれば、同一職種(清掃)同一賃金にしちゃって、まずは地域内資本へのサービス提供の優先順位を上げる仕組みとかできないかなと。
民間の清掃会社が運営してる限りは、どうしてもビジネス上の選択を強いられるので、清掃会社を旅館・ホテル組合の傘下に収めちゃって、そこが地域内資本有利なアサインルールを決めちゃうってできませんか?アサイン先の決定はポイント制にしてポイントが高いところから優先的に清掃員が配分されるとか(保育園のポイント制みたいな感じで、地域内資本ってだけで+10ptみたいな)
それならばと地域外資本が自社での採用を強化し、清掃員に対してより高額な給料を提示したらどうするか。結局また人材の奪い合いが起こって人がそっちに流れちゃう??
差額は補助(宿泊税から捻出)
地元資本の宿と大手の宿が提示する給与との差額を宿泊税で賄うなんてありかしら。大手資本が集めてくれた税金で地元の宿の雇用を維持するっていう。
人材プールで稼働を安定させる
清掃会社が大規模ホテルに優先的にアサインしたい理由の一つとして、安定した稼動によって安定して人を貼り付けやすいってのがあると思う。であれば、一つの宿ではなく複数の宿が連携することによって、清掃員の稼働を皆で担保する仕組みとかはどうでしょう?
複業支援・他産業との連携
それでも一時的には雇用を安定させるだけで、給料が上がらないのは清掃員だから仕方ない、と片付けちゃいそう。。
それならば複業を積極的に斡旋して別の収入源を作ってあげられません?閑散期とかで清掃の仕事が少なくなるのであれば、別の産業で人手不足で困ってるのは地域にいくらでもいるから、他産業との人を融通することで、給与を安定させる/複業で増やす仕組みを街一体になって整えるのは難しいかなー。
若い世代への事業承継
ローカリティを維持するには(古き良き田舎ではないかもだけど)、大きい資本による投資の色が滲み出たハコと画一的なサービスを提供する宿よりは、個人が各々の特色を出す施設が増える方が良いとは思う。そんな中にも地域としてどこか共通して滲み出てくる色があれば、それが地域性であり、もう少し発展すると文化にまでなり得るのかも?
一時のゲストハウスブームは去ったとはいえ、若い世代でゲストハウス(民宿サイズの宿)をやってみたい人は多いはず。インバウンドが回復した時に、彼/彼女らの事業候補地として、飛騨高山は悪くない。事業承継、移住促進的な意味合いでも取り組んでみる価値はありそうにも思う。
これって地域外資本にとってもなかなかに辛い状況になっていく・・
人材不足がどんどん深刻化する中でのホテル建設ラッシュっていうのは、参入してくる地域外資本にとっても、想定している以上に厳しい現実が待ってると思う。
ホテル計画を立てる時、観光客の需要、近隣のホテル客室数はある程度事業計画に盛り込むけれど、人手不足から来る清掃員コスト高騰・リネン手配の難易度高騰リスク、運営スタッフが不足し在庫を全部販売できない機会損失リスクを勘案して計画する事業者ってどれくらいいるんだろう。
大きい会社になればなるほど、経営と現場での運営が離れているだろうから、ホテルが完成するとこまでが責任範囲の開発チームにとっては、運営スタッフがいない!等の問題には興味はないし、その上の投資家に至っては、リターン以外はどうでも良い些末な問題としか捉えられないのではないでしょうか?
自社でスタッフを雇用しようにも、これからの時代にオープニングスタッフとして10名単位の雇用を確保するなんて至難の技だろうから、結果人集めができずに販売在庫を限定せざる得ない状況が増えちゃうんじゃないかなーなんて。
とはいえ、弱者というのを言い訳にするのも違う
ここまで地域資本有利にしたら良いと書いておきながらちゃぶ台ひっくり返すと、地域外資本の方が体力あるから給与が高いのは当然だよねって片付けるのは簡単だけど、それで片付けちゃうのは違う。やっぱり給与を少しでも上げていくのが雇用する側の責任であって、そこは甘えてはいけないんだと思う。
同時に給料は何も自分のとこだけで上げる必要はなくて、スタッフの所得が上がる余地を増やすって考え方も必要だと思う。自社1人で従業員の給料を増やそうと躍起になると、宿泊業の事業モデル上限界があるから、外部と連携する・従業員が自分で稼ぐ余白をつくることで、所得を増やすって考え方も重要かなと。
後、この話って、観光業・宿泊業に関わらず他の産業でも十分に起こり得る。
なんなら観光バブルが再びやってきた時、他産業だから関係ないやーなんて思ってると、黒船清掃員として引き抜かれちゃう可能性は十分に考えられる。
この投稿は宿業、特に清掃にフォーカスをしたけれど、労働集約的な職種はこれから似たような現象がどこでも起こる。同じような職種であれば、産業を越えて人の争奪戦(物流、清掃、接客サービスとか)が起こることを考えると、宿事業者だけに降りかかる懸念でもないんだろうなーと思うんですがいかがでしょう?
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