コロナを経てわかった銭湯の可能性と千載一遇のチャンス到来で何をすべきか考えてみた。

銭湯

2022年11月開業を目標に銭湯の改装計画を進めています。
コロナ禍を経て後ろ倒しになったと思ってた計画が突如前倒しとなり、更なる借金地獄に身を投じることとなりましたが、自己破産せずにこうして事業を営み続けられるのは、紛れもなく家業である銭湯のお陰。

コロナ禍の2年間を経て、Uターン当初おぼろげながらに考えていた銭湯の可能性がはっきりとして来たので、改装計画が具体化するこのタイミングでまとめてみました。

コロナ禍で自己破産せずにいられるのは銭湯のお陰

宿業が前年比99%減を記録する最中でも、銭湯事業は比較的安定していた。厳密に言うと、利用者は減ってはいたけれど、市内に3軒ある銭湯のうち1つが閉店したことによる棚ぼた特需のお陰で減少幅は最小限に食い止められていた。

緊急事態宣言下においても公衆の衛生管理のための銭湯はあらゆる補償対象から外れる代わりに営業を続けられたし、常連さんもコロナ怖いと言いながらも利用を続けてくれた。大きな借入がない銭湯事業からの現金収入は本当に本当に助かりました。。

金銭的な支えに加え、常連のおじいちゃん・おばあちゃんからかけられる「コロナに負けるな」の言葉は鎮静剤として僕を支えてくれた。BEFOREコロナ期に宿から送られてくる外国人にキレてた常連さんが何故か応援してくれる。明るいニュースが何一つない中で、日々かけられた温かい言葉は自己破産寸前男には沁みました。。

そんな中で訪れた銭湯の大幅な設備投資機会。斜陽産業と言われて尚い銭湯に今更手を加える意味ってあるのでしょうか??

銭湯がこれから益々熱くなる理由

socialでありwell-beingな銭湯

高齢者にとっての互いを見守る場であり貴重なコミュニケーションの場

ヒートショック(急激な寒暖差からくる血管の収縮によって起こるめまい→溺れる、血管破裂とか)が原因で亡くなる高齢者は年間で19,000人にのぼると言われてる(交通事故よりも多い!)。このリスクを下げるには、お風呂に入る前後の温度変化を極力小さくすること、体調の変化を誰かがすぐに気付けることが大事なのだけど、寒く1人で入るのが基本な各家庭のお風呂よりは銭湯を利用することでそのリスクは下げられる。独居の高齢者が増えた最近は、銭湯の時間は数少ない人との会話時間であり、彼/彼女らの「IKIGAI」にもなる可能性がある。

働く大人・若者にとってのサードプレイス

スタバが自宅でも職場でもないサードプレイスになるのであれば、銭湯もサードプレイスになり得るなと。東京で通ってた銭湯では20代の若者が合コンの反省会をしていたし、じっと目を閉じて話しかけてくれるなオーラを出してる人もいた。コーヒー1杯と同じ値段で利用できる銭湯ではカフェと比べても遜色ないサードプレイス時間を提供したいなと考えてる。

子供にとっての社会を知る場

入浴というプライベートな行為を他人と共にする銭湯は、子供たちにとって一番身近な社会勉強の場になる。詩人の田村隆一がこんなことを言っていた

銭湯すたれば 人情もすたる 
銭湯を知らない子供たちに
集団生活のルールとマナーを教えよ
自宅にふろありといえども
そのポリぶろは親子のしゃべり合う場
にあらず、ただ体を洗うだけ
タオルのしぼり方、体を洗う順序など、
基本的ルールは だれが教えるのか
われは、わがルーツをもとめて銭湯へ

田村隆一

懐古主義的で古臭い価値観と切り捨てられそうなこの言葉。カズオイシグロの言う”縦の旅行”と合わせて考えると、銭湯がこれからの時代に子供だけでなく誰もが必要する場所になり得るのではないかなと。

カズオ・イシグロ語る「感情優先社会」の危うさ
――今回の小説を書き終えたのは、新型コロナウイルスが始まる前ですか。2019年の11月か12月には書き終えていました。学校に行っていない子どもが登場したり、今回の小説がコロナ禍を彷彿させる場面があるとしたら…

老いも若きも幼きも、太っててもカリッカリでも、裕福でもそうでなくても、全身刺青でも外国人も、あらゆる人が裸でお風呂場を共にする。そこで得られる満足感は、自分だけのもの。

すごくフィジカルですごく一人称、んでもってソーシャル。

これってありそうでないサービスだなと。

コスパが良いし堅実な銭湯

コスパの良い銭湯

利用者として、銭湯で過ごす時間の対価として420円を払うことは、なかなかに満足度の高い選択肢ではないかと。
単身世帯の場合、自宅のお風呂に入るため、200Lの水道水を遠い世界のどこかから運ばれてきた化石燃料を消費して温める。1回の入浴で要する水・ガス代は約150円だと言われています。
そこに定期的な掃除の時間を費用として加算して銭湯の利用と比べると、入浴により250円くらいの満足度を提供できれば納得感ある420円の使い道として認められるのでは!?と思うのです。

銭湯への往復時間、移動に伴い消費されるガソリン、お風呂の残り湯を洗濯に使うことでの節水効果等々、この主張に若干の影響を与えるファクターを一切無視すると銭湯が極めて合理的な選択肢に見えてきます。

堅実な銭湯

今後増えていくであろうニーズ(絶対数は減ってはいくけれど)に対して増えることはない同業の数。

馬鹿高い設備投資/維持費が必要かつ高騰する灯油の仕入価格が対2020年度比で倍になっていたとしても、物価統制令によって上げられない顧客単価。

外部から見る市場環境はめちゃ悪いですが、これから事業を承継する立場から見るこの環境は必ずしも悪くは移りません。
宿と違って、投資回収期間を10-15年見ないと成立しない反面、LTV(Life Time Value)勝負と捉え、長期にわたるコミットさえすれば安定した収益源になることはコロナ禍が証明してくれました。

エコでありサステナブルな銭湯

各家庭で個別にお風呂を利用するのは環境を考えても効率的ではない。

これから化石燃料が世界の槍玉にあげられて、シェールガスなんてあったなぁ・・なんて懐かしむくらいに化石燃料の価格が安くなることなんて期待できないし、脱炭素・地球資源保全の圧力が強くなるにつれ、、水・それを温めるための燃料を集約することは地球環境にとって必要なのではないでしょうか?と。

入浴機能を銭湯へアウトソースしてたのは、各家庭にお風呂がないことが普通だった貧しい時代にだけ求められたものではなく、地球資源が乏しくなる未来にも必要とされる、はず。

とはいえ課題が多いから軒数が減っているのも銭湯

家族経営から脱却することの難しさ

銭湯は可能性に満ち溢れている!なんてそれっぽい理由をあげてはみましたが、やっぱり銭湯って薄利な上にとんでもない労働集約型産業なので、運営を続けるのが大変なんです。

中村家では2連休をとれるのは1年に1回。お風呂が稼いでくれるので、常に体を動かしてる訳ではないのですが、それでも毎日の掃除は欠かせないし、ルンバは滅法水に弱い。

人雇ってそこを楽したいと思っても、人口減って売上下がるは、化石燃料は高くなって利益減るは、単価上げようと思っても法律に縛られて上げられないは、ビジネスとしての難易度は普通に考えたらとても高い。

人を雇えないから家族で運営するしかない
毎年増えてくる膝肩腰の痛み
で 人雇う
と 利益がなくなる。

そりゃ絶滅危惧種に指定されます。

改装の大チャンスに何をするか

家族を主体とする体制から人をいれて持続が可能な体制を作ってはいきたいが、薄利な事業構造からどう人件費を捻出するのか。
コロナ補助金によって、まとまった設備投資ができる千載一遇のチャンスに何をするべきなのか。

改装をするにあたって考えたメインテーマは、この先30年は続けていくためのベースを作ること。
その中でも売上を増やすこと(客数)と人件費を捻出するための燃料費を下げることはめちゃ考えています。

業界関係者以外1mmも興味を持たれないであろう燃料の話についてはまた別の投稿で。

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銭湯と宿と木でまちづくり(中村匠郎ブログ)

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